自衛官が退職後の収入をどうつくったか|AIで能力を棚卸しし、業務委託にたどり着くまで
就職援護が使えない中途退職で、退職後の収入をどう組み立てたか。AIを能力の棚卸しに使った方法、バイブコーディングの限界、業務委託契約に至った経路を、元自衛官の経験から書きます。
前の記事で、私が中途退職だったために防衛省の就職援護を使えなかったことを書きました。
援護が使えないということは、退職日の翌日から、自分で収入をつくる必要があるということです。
私は最終的に、退職金と民間企業との業務委託契約で当面をつなぎました。この記事では、そこに至るまでに何をやったかを書きます。
出発点は「意識の高さ」ではなく「面倒くささ」だった
先に正直に書いておきます。私がスキルを身につけ始めたきっかけは、転職のためではありませんでした。
私はもともと、同じことを繰り返すのが苦手です。業務の中で、毎回同じ手順を踏む作業が出てくると、それが苦痛でした。
ChatGPTが世の中に知られ始めた頃、私はすでにAIに触れていました。当時のAIでも、Excelのマクロや、スプレッドシートのGASを、チャット形式で書いてくれました。
私にとってAIは、最初から最後まで面倒くささを解消するツールでした。
なぜこれを書くかというと、動機が「面倒くさい」で構わないからです。「転職のためにスキルをつけよう」と考えて始めたことは、たいてい続きません。目の前の面倒を潰すために使ったものは、続きます。
AIの本当の価値は、コードを書くことではなかった
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
AIを使っているうちに、プログラミング以外のことに使えると気づきました。
AIは、自分の強みを言語化してくれました。
そして、市場のレベルを教えてくれました。
これが大きかった。
前の記事で、私は「もっと早く能力の棚卸しをやるべきだった」と書きました。そして「自衛隊で培った能力は、そのままではほぼ役に立たない」とも書きました。
その変換作業を、実際にやってくれたのがAIでした。
自衛隊の中にいると、自分の経験を外の言葉に翻訳してくれる相手がいません。周りは全員、同じ前提を共有しているからです。「あれをやった」で通じてしまう環境では、自分が何をできるのかを、外の言葉で説明する必要が発生しません。
AIには、その前提がありません。だから、自衛隊の用語で説明すると通じない。通じるまで言い直す過程が、そのまま棚卸しと翻訳の作業になります。
さらに、市場のレベルを聞けます。「この技術は、いまの市場でどの水準か」「これができると、どういう仕事につながるか」。自分の現在地が分かるということです。
自衛隊の中には、民間の市場価値を教えてくれる人がいません。これは誰かが悪いわけではなく、組織の中にその情報が存在しないというだけのことです。
足りない部分は、壁打ちで特定して埋めた
現在地が分かると、次は差分です。
足りない部分をAIと壁打ちすることで理解し、そこを勉強していくことで実力をつけていきました。
順番はこうです。
- AIに自分の経験と現在のスキルを説明する
- 市場の水準と、そこまでの差分を聞く
- 差分の中身が何なのかを、分かるまで壁打ちする
- 分かった差分を、勉強で埋める
3が重要です。「何が足りないか」を聞くだけなら1分で終わりますが、返ってきた答えの意味が分からなければ、勉強のしようがありません。分からないことを分かるまで聞けるのが、AIを使う最大の利点でした。
人に同じことは聞けません。同じ質問を3回すれば、相手の時間を奪います。AIには何回でも聞けます。
バイブコーディングでは、ビジネスで通用するレベルにならない
一方で、はっきり感じた限界も書いておきます。
いわゆるバイブコーディング——AIに指示して、コードの中身を理解しないまま動くものをつくる手法が流行りました。
基礎がない状態でこれをやっても、実際にビジネスでやっていけるレベルにはなれないというのが、私の実感です。
動くものはつくれます。ただ、仕事として引き受けるとなると、話が変わります。動かなくなったときに直せない。要件が変わったときに、どこを変えればいいか判断できない。なぜそう書くのかを説明できない。
仕事は、うまくいっているときではなく、うまくいかなくなったときに差が出ます。
私の場合、もともと大学で情報工学を学んでいたため、プログラミングの基礎的な知識がありました。これは正直に書いておくべき前提です。同じことを誰でもできるとは言えません。
ただ、逆に言えば、基礎を身につける工程を飛ばさなければ、AIは強力な武器になります。順番の問題であって、才能の問題ではないと思っています。
契約は、求人ではなく人のつながりから来た
最後に、実際に業務委託契約に至った経路を書きます。
プログラミング仲間とつながったことが、業務委託契約につながりました。
求人サイトに応募して決まったわけではありません。学習を続ける過程で人とつながり、そこから仕事の話になりました。
これは運の要素もありますが、構造としては理解できます。
職務経歴書での応募は、書類上の経歴で判断されます。自衛官20年という経歴は、書類の上では民間の実務経験としてカウントされません。前の記事に書いたとおり、そのままでは伝わらないからです。
一方、実際に手を動かしている場で人とつながると、判断材料が経歴ではなく「いま何ができるか」になります。私にとっては、こちらのほうが有利でした。
経歴で戦えないなら、現在地で戦える場所に行く。これが結果的にやったことでした。
在職中の自衛官が、今日からできること
私の経験から、順番として意味があったと思うものを書きます。
- 目の前の面倒を潰す道具としてAIを使い始める(転職のためと考えない)
- 自分の業務経験をAIに説明してみる。自衛隊の用語なしで通じるまで言い直す
- 市場の水準と、自分との差分を聞く
- 差分の中身を、分かるまで壁打ちする
- 基礎から埋める。動くものをつくるだけで止めない
- 手を動かしている人とつながる
1と2は、今日、在職中にできます。そして2は、そのまま職務経歴書の下書きになります。
在職中の兼業・求職には規制があります
学習は自由ですが、兼業と求職は別です。
- 自衛隊法第62条(私企業からの隔離):営利企業の役員等に就くこと、自ら営利企業を営むことは禁止されています。防衛省令で定める基準に従った防衛大臣またはその委任を受けた者の承認を受けた場合を除きます
- 自衛隊法第65条の3(在職中の求職の規制):利害関係企業等に対する在職中の求職には規制があります
学ぶことと、報酬を受け取ることの間には線があります。在職中に収入が発生する形を検討する場合は、必ず条文と所属の規程を確認してから動いてください。
まとめ
- 援護が使えない中途退職では、退職日の翌日から自分で収入をつくる必要がある
- 始まりは「面倒くさい」でよい。転職のためと考えたものは続かない
- AIの最大の価値は、コードを書くことではなく、自分の強みの言語化と市場水準の提示だった
- 自衛隊の中には、民間の市場価値を教えてくれる人がいない。AIはその欠落を埋められる
- バイブコーディングだけでは、ビジネスで通用するレベルにならない。基礎の工程は飛ばせない
- 契約は求人ではなく、手を動かしている人とのつながりから来た
- 経歴で戦えないなら、現在地で戦える場所に行く
- 在職中の兼業は自衛隊法62条、求職は65条の3の規制がある
この記事は運営者本人(元自衛官・在職約20年・中途退職)の経験にもとづいて書いています。個別の状況によって結果は異なります。制度に関する記述は自衛隊法の条文を確認していますが、実際の取り扱いは所属および時期によって異なるため、必ず所属の担当部署と最新の法令をご確認ください。
出典
本文中の引用は、次の一次資料から行っています(いずれも 2026-08-23 閲覧)。
- 自衛隊法(昭和29年法律第165号) https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000165
法令の条文は e-Gov 法令検索(デジタル庁)で確認しています。